ちょっと奇妙で贅沢「鳥 デュ・モーリア傑作選」
こんにちは、ムギです!
最近はファンタジーばかり読んでいるので、気分を変えてファンタジー以外の本を選んでみました。
今回は短編集「鳥 −デュ・モーリア傑作選−」の感想です。
感想
純愛もの、サスペンス、ホラー、探偵ものといろいろなテイストが楽しめます。
しかもそのどれもが文句なしに面白い、贅沢な短編集でした!
中でも特に好きだった二編と表題作について、短い感想を書きたいと思います。
鳥
ある日突然、野生の鳥たちが人間を襲い始めた!というお話。
最初は面白がっていた人々も、鳥たちの襲撃によって次々に命を落とします。
なぜ鳥が人を襲うのか、これから人類はどうなるのか、なんてことは全く説明されません。
ただ静かに、じわじわと日常が崩れていく過程がひたすら真に迫って描かれていきます。
これがめちゃくちゃ怖いんですよ!(◎_◎;)
もちろん、現実にはまずありえない設定です。それでも、もしこんな風に自然が牙をむいた時には、人間が出来ることは思っているよりずっと少ないのかもしれません。
表題作にふさわしい強烈な一編です。
モンテ・ヴェリタ
ヨーロッパのどこかに存在する未開の山、モンテ・ヴェリタ。
その頂には月を信仰する美しい人々が、永遠に年をとらずに古い僧院で暮らしている…。
荘厳で神秘的で、他の8編とはかなり雰囲気が違います。
この山に「呼ばれて」しまった親友の妻に伝言を届けに、山に足を踏み入れる主人公。そこで彼が目にしたものとは?
人智を超えた凄みのある作品です。
面白さではどれも優劣つけがたいですが、個人的に一番好きな話でした!
結局、モンテ・ヴェリタについての真相は明かされないまま。でもそれが良いんですねー。
読み終わって、もう一度冒頭に戻って読み返したくなりました。
林檎の木
何かにつけて鬱陶しい妻が病死し、自由な生活を謳歌する主人公。
しかしある日、亡き妻を思わせる庭の枯れかけた林檎の木が目につくようになり…。
これもまた怖〜い話です。
まず、執拗なまでの醜く恐ろしい林檎の木の描写に震え上がりました。
林檎の木がここまで不気味に書かれている話はなかなかないと思います。読んでるこちらまでリンゴが嫌いになりそうなほど。笑
そんな描写から、はじめは「亡き妻の亡霊が林檎の木となって帰ってくる」というホラーだと思って読んでいました。
しかし、途中からだんだんおかしいのは主人公の方のような気もしてきます。この辺がすごーく絶妙な書き方をしているんですよね。
主人公の目線から外して読むと、妄想に取り憑かれた男のこっけいな話にも思えてくるのが面白いです。
この他にも、映画館での短い恋を描いた、苦くも眩しい「恋人」。
気だるい夏のフランスの空気感が最高な 「写真家」。
何気なく読んで最後にあっと驚く 「番」。
突然未来にタイムスリップしてしまった夫人のおかしなSF 「裂けた時間」。
あまりに悲しいラストが余韻を残すミステリー短編 「動機」。
どれも本当に傑作で、つまらない話が一つもありません。
作者はイギリスの作家さんで、お屋敷の生活やお茶の時間、荒涼としたヒースの原といったイギリスっぽい生活感が満載なのも楽しいんですよ。
そして、そんな落ち着いた上品さに内包された不気味さ。これがすごく好みでした(*´◒`*)
面白い短編集をお探しの方、ぜひ手にとってお気に入りを見つけてください!おすすめです。
おわりに
ダフネ・デュ・モーリアは、レベッカの作者として有名なイギリスの女性作家です。
「レベッカ」の方がすごく面白かったので読んでみましたが、こっちも大当たりでした。
他にもデュ・モーリア短編集は何冊かあるようなので、見つけたらぜひ読んでみたいと思います。
それではまた次回!